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第27回 JUSEパッケージ活用事例シンポジウム「ビッグデータ時代の統計的方法の有用性」を終えて(著者 平野綾子氏(スタッツギルド株式会社))

1.はじめに

2017年12月4日(月)に渋谷区千駄ヶ谷のSYDホールにて第27回JUSEパッケージ活用事例シンポジウムが開催された.今回も非常に多くの聴講者が参集し,会場は満席となり,最終的な参加者は140名であった.

シンポジウムは,(株)日本科学技術研修所の宮久保氏による事務連絡から始まり,司会は,東京理科大学の安井清一先生が務められた.

開会に際し,酒井融二(株)日本科学技術研修所代表取締役社長からシンポジウムのねらいと本年度の統一テーマの発表があった.

本年度の統一テーマは「ビッグデータ時代の統計的方法の有用性」.近年,AIの実用化が一段と進展し,その基盤となるIOTなどの重要性がますます高まってきている.このような時代であるからこそ,正しい判断を導き出すための方法として,統計解析は一段とその重要性を増していくものと確信している.品質改善や統計解析について話題性のあるテーマを先生方に講演いただくとともに,産業界の優れた実践事例を通じて,情報交換の場や研鑚の場としていただきたいとのことであった.

また,2016年10月からニュートンワークス(株)と共同開発したCAE設計支援ツールの販売と,保守契約者向けサービスとして手法選択ナビゲーションシステムのサービスの提供を開始している.以降の計画として,あらたにStatWorks/V5英語版の販売開始とMTシステムの両側T法の公開,そして,ビッグデータ解析ツール機械学習編を2019年に販売予定であることを発表された.

2.記念講演


小野田 崇 氏
発表資料(1.34KB)

記念講演は,青山学院大学教授の小野田崇先生が努められ,「製造業におけるAI+ビッグデータ利活用の考え方および課題」というテーマで,人工知能ブームの歴史,統計学と機械学習の類似と相違について講演された.

1950年代に第1次人工知能ブームが始まり,1956年にジョン・マッカーシーという研究者によって人工知能(AI)が産声を上げた.当時は,チェスを目指すコンピューターや数学の定理証明をするコンピューターが人工知能であった.

その後,1980年代に第2次人工知能ブームが訪れ,このときの立役者は,エキスパートシステムと第五世代コンピュータープロジェクトであった.この第2次人工知能ブーム中に「ニューラルネットワーク」が注目された.ニューラルネットワークは,人間の脳神経回路を模倣することによってデータを人間と同じように分類しようというアイデアに基づくアルゴリズムである.しかし,ニューラルネットワークで脳の神経回路の構造を真似ようとしても,当時のコンピューターの性能では,「入力」「中間」「出力」の3層構造しかできず,人間を超える性能を発揮するには至らなかった.

その後,1990年代に機械学習は成長期を迎え,サポートベクターマシン(SVM)を中心としたカーネル法やBagging,ブースティングを中心としたアンサンブル学習が機械学習として注目された.また,機械学習の性能を評価する汎化理論が注目されたのもこの時期である.

2000年代になると,コンピューターの性能向上と学習アルゴリズムの工夫によって,ニューラルネットワークの階層が4層,5層と多層構造になり,より精度の高い機械学習の実現に成功した.2000年代は機械学習の発展期となり,これまで機械学習と呼ばれていた研究が,ビッグデータを扱うようになって人工知能と呼ばれるようになり,第3次人工知能ブームを引き起こしたと見ることができる.第3次人工知能ブームでは,人工知能がさまざまな領域で成果を出し始めている.2015年10月には囲碁コンピューターAlphaGoがヨーロッパチャンピオンに勝利し,さらに,2016年3月には世界チャンピオンに勝利したことが有名である.

統計学と機械学習の類似と相違について考えると,統計学と機械学習はほぼ対応できるが,そもそもの考え方が異なっており,統計学は推論(分析)中心で語られるが,機械学習は予測中心で考える.統計学では入力Xと出力Yがどのようなモデルで説明できるかを探るため,パラメータが重要になるが,機械学習では入力Xから出力Yを正確に予測するモデルを探るため,パラメータは重要ではない.つまり,統計学は可読性が高く,機械学習は可読性が低いといえる.そのため,機械学習での学習内容の良し悪しを統計学で証明する方法がよくとられている.

事例では,変電所における「油中ガス分析データに基づく変圧器の内部不具合診断」を取り上げ,統計学と機械学習の活用方法を示された.電力用変圧器内のガスを抜き取り,多変量解析と機械学習の両方を利用して,ガス成分から内部不具合(正常or異常)を判別するために,マハラノビス距離,多変量線形判別,線型SVMを用いて3つの判別モデルを作成した.通常の多変量解析(多変量線型判別分析,マハラノビスの距離)では識別困難であったが,機械学習(線型SVM)を使うことによって変圧器の状態を正しく判別できる式を生成できる可能性が示唆された.

最後に,AI+ビッグデータを利活用するためには,「明確な利用目的」を持つことが最重要であるとまとめられた.

3.事例報告

事例1. 微粉分離用セパレータの除去率向上


森下 敏 氏
報告資料(427KB)

日本ゼオン(株)森下敏氏からは,「微粉分離用セパレータの除去率向上」について報告がなされた.原油から独自技術を用いて合成ゴム原料などのさまざまな素材を製造する工程で,異常を未然に検知・排除するためのインラインの製品検査機の改善事例の紹介である.

導入した製品検査機が,各工程で副次的に発生する微粉によって粉まみれとなり動作不能になる.現状把握で,問題が発生したプラントと発生しなかったプラントを比較し,プラント別に工程間での微粉の発生状況を調べた結果,問題が発生したプラントでは,微粉を除去するためのセパレータがまったく機能していないことがわかった.目標は,問題が発生したプラントにおける製品検査機に入る微粉の量を,問題が発生していないプラント相当まで減少させることとし,目標値を微粉除去率97%とした.要因解析では,要因を5つに絞り込み,L32の直交配列実験による検証を行った結果,5つの因子すべてが微粉除去率に影響を与えていることを確認した.試作実験では,日間をブロック因子とした乱解法の3因子実験を行い,風速が大きく,製品と一緒に同伴させると微粉除去率が高くなることがわかったが,推定平均除去率は40%程度となり,目標の97%には届かなかった.詳細を調べてみると,微粉の38%がセパレータ内に付着していることが判明した(未回収粉).特性要因図を使って微粉がセパレータ内に付着する要因を洗い出し,それらを改善した上で再度実験を行った結果,回収粉は15%から47%へ改善され,最終的な微粉除去率は81.9%まで向上したとの報告であった.

質疑応答では,試作実験での結果の考察や,測定の信頼性の評価方法,現状把握段階でのロット内の時系列変動についての質問があり,解析の考え方について議論がもたれた.

事例2. 海外従業員に対する有効的なSQC Trainingについて


清水 貴宏 氏
報告資料(593KB)
発表資料(1.72MB)

パナソニック(株)清水貴宏氏からは,「海外従業員に対する有効的なSQC Trainingについて」の報告がなされた.人材育成支援の内容や日本と海外での反応の違いなど,実務経験から感じたことや効果的な支援をするためのポイントと今後の課題を報告された.

グローバリゼーションという言葉が一般的に使われるようになってから約30年以上が経過し,日本の海外事業展開は増加している.2001年から2017年まで,中国,インドネシア,シンガポール,スロバキア,ドイツとさまざまな国で支援を行ってきた.支援内容としては,海外事業場責任者へ支援内容の主旨や経営の期待効果を説明し,その上で事業責任者・運営者へ実務テーマの選定や対象人員の選定,推進体制の整備などをお願いしている.実務テーマの選定では,現在抱えている事業課題や過去から継続している未解決課題などを取り上げ,経営成果を創出することを目的としている.対象人員の選定では,グループワークでは,課長や部長クラスをメンバーに入れ,統計手法の講義は,開発・技術のスタッフに限定するなどの工夫を行っている.支援側は必ず現場へ向かい,課題の状態を客観的に共感することが重要である.海外従業員の反応の特徴として,業務の中でどのように活用できるか(仕事の成果につながるか),理屈を知りたいという欲求が強い傾向にあるため,どのような場面で使うと効果的で,どんな使い方をするとどんなリスクが発生するかを明確に教える必要がある.また,海外では製造業では若者の離職率が高く,30歳以降から離職の割合は安定する傾向にあることから,業種と年代に応じた育成支援を行う工夫をしている.

最後に,ASEANに比べて欧米欧州への指導導入が難しいこと,日本国内で実用統計の知識・活用を高めることが重要であること,そして,人材育成には時間がかかることが課題であるとまとめられた.

コメンテーターである東京情報大学准教授の内田治先生からは,海外に限らず社内教育でもそのまま活用できるような内容であった.手法(テーマ)ありきであることが上手く教育を進めるコツであると感じた,とのコメントがあった.

事例3. サッカーのトラッキングデータからの守備戦術技能の達成度評価


松岡 弘樹 氏

筑波大学の松岡弘樹氏(他7名)からは,「サッカーのトラッキングデータからの守備戦術技能の達成度評価」について報告がなされた.近年,データテクノロジーの発展から,サッカーゲームのトラッキングデータを取得できるようになり,これを活かした戦術プレーの分析が可能となった.トラッキングデータを有効活用するために,トラッキングデータからサッカー守備戦術プレーの達成度尺度評価を作成した事例紹介である.

トラッキングデータは,半自動追尾型ビデオカメラをスタジアムに複数台設置し,選手の位置情報を取得する.サッカーゲームのトラッキングデータは,フィールドに存在する全選手の0.04秒置きの座標データから構成されているビッグデータであり,統計分析のための測定項目へ加工する必要がある.守備戦術技能の達成度評価の作成にあたり,データ加工方法の開発,サッカー戦術プレーの定量化,戦術プレーの達成基準の構成,戦術プレーの達成度評価項目の構成という4つの課題を取り上げた.データの加工方法は,測定誤差を最小限にするため0.2秒ごとの平均値を採用し,攻撃アクションに対応した守備選手に関連した情報を守備プレー項目とした.その後,SEMを適用して探索的因子構造に基づく検証的因子構造モデルと守備結果への因果構造モデルから,守備戦術技能項目の構成概念の妥当性を確認し,決定木分析(CRT)を用いて達成基準値と係数を設定した.さらに,項目反応理論(IRT)分析を用いて,守備戦術プレーの達成度評価項目の評価性を確認した.

フロアからは,守備戦術技能得点の時間推移を考察する提案や,解析結果の解釈についての質問があり,最後に,コメンテーターである文教大学教授の関哲朗先生から,これまであまり語られてこなかった「守備」に注目して分析をした点がおもしろい.また,専門家が思わない結果も得られたが,これも一つの知見として,今後の分析を深めていってほしい,とのコメントがあった.

製品紹介


犬伏 秀生
報告資料(586KB)

(株)日本科学技術研修所の犬伏秀生氏からは,StatWorks/V5の新製品および新機能サービスについて紹介があった.手法選択ナビ,V5英語版,両側T法,ビッグデータ解析ツール(機械学習手法編(仮称))の開発提供時期が示された.

なお,2018年4月頃には有償保守契約者向けにモニター評価版を提供する予定である.

今後,ビッグデータの利活用の支援を重点項目の1つとして,ツール開発などを進めていきたいと結んだ.

コメンテーターである東京情報大学准教授の内田治先生は,JUSE- StatWorksはクセがないデータの入力の仕方で,多変量解析などを行ううえで,とても操作がしやすい.反面,ノンパラメトリック法と多重比較法の機能を増やしてほしいと個人的に願う,とJUSE- StatWorksへの感想と今後の期待をコメントした.

事例4. MTシステムを活用した良品条件の判定方法


田上 康博 氏
報告資料1(588KB)

(株)アーレスティ栃木の田上康博氏からは,「MTシステムを活用した良品条件の判定方法」についての報告がなされた.アルミダイカスト製品の鋳巣不良の改善事例である.

アーレスティの改善活動の基本となる考え方は国内外グループで統一できるように,「OPCCでものづくりプロセスを実現する」で活動を行っている.この考え方は,「不良品を作らない」,「不良品を後工程へ流さない」を根幹としている活動であり,実現するためには,従来の品質の適合・不適合の判断のほか,工程の正常・異常の判断となるMT法の活用が必要不可欠であると考えている.現状把握では,自動車のシリンダーブロックの納入不良の内,鋳巣不良が95.5%を超えており,中でもα部の鋳巣不良が62.4%を占めていることを確認し,目標値をα部の鋳巣不良0ppmと設定した.要因分析では,特性要因図から要因を絞り込み,L8直交配列実験による検証を行った結果,射出速度(高速速度と低速速度)が影響していることを確認した.さらに,射出速度の最適水準を探索するために応答曲面解析を行い,最適条件を設定して量産に適用したところ,対策後の鋳巣不良は209ppmまで良化したが,目標は未達となった.そこで,射出速度についてさらに深堀し,MT法による射出波形解析を行った.良品と不良品の射出波形を比較すると,射出ストロークが異なっていることが明らかになった.つまり,最適な射出条件範囲でもコントロールできていない波形があり,この点をみることで正常か否かの判断ができることがわかった.これらを踏まえて,高速速度の平均値に管理閾値を設定して管理することとした.対策後,α部の鋳巣不良は0ppmとなり,目標を達成することができた.

コメンテーターである(株)ジェダイトの鶴田明三先生からは,プロセス改善と異常判定の流れの改善事例であった.今回の事例は,射出速度と時間の関係を波形データとし,うまく特徴をつかみ判別に利用し,良品と不良品を見分ける成功事例であった.波形は非常に応用範囲の広いデータであり,検査や判別に使えるので,是非,色々な企業でも応用してほしい,とのコメントがあった.

5.エキスパート賞受賞講演


野田 宗利 氏
発表資料(588KB)

StatWorks活用エキスパート賞を受賞した豊田合成(株)の野田宗利氏には,「豊田合成におけるSQC/QE実践力向上活動とトヨタグループでの取り組み」を紹介いただいた.

トヨタにおけるSQC/QEの定義は「仕事の効率を高め,成果につなげる道具」であり,モノづくりの各フェーズに適用可能と認識している.ただし,しっかりつかえるようになるには時間がかかり,基本の座学教育と職場実践が必要不可欠になると述べ,取り組んでいるアドバイザー教育プログラムやSQC実践研究会の活動内容と成果などを報告された.

6.おわりに


展示ブースでは
StatWorksのデモを体験できた

一日にわたり,活発な討議において議論を深めることができるシンポジウムとなった.産学から多彩な人財が集い,実践事例を通じて,情報交換や新しい知見の発見の場となった. 会場の雰囲気を少しでもお伝えできれば幸いであるが,来年度は是非,足をお運びいただき,活用のヒントにしていただければと思う.

著者:平野 綾子氏
スタッツギルド株式会社

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