六一学者 - 吉澤 正氏
(第10回JUSEパッケージ活用事例シンポジウムにて)
われらが生活のうちに失いし生命はいずこ?
われらが知識のうちに失いし知恵はいずこ?
われらが情報のうちに失いし知識はいずこ?
T.S.エリオット「岩のコーラス」より
アメリカのセントルイスで生まれ,イギリスで活動したT.S.エリオット(1988-1965)による詩の一節である.もとはなかなか長い詩で,よく理解しているわけではいないが,この部分だけは印象に残った.われわれデータ解析を行う者にとっては,「われらがデータのうちに失いし真理はいずこ?」と気にかかるからである.
われわれは,多変量解析や実験計画法などの統計的方法を利用し,いろいろな現象を観察して対象とするものの性質をデータで表現し,そのデータを解析することによって現象を科学的に説明するモデルや仮説を導いたり,あるいは仮説を検証したりしている.そこで扱うデータやモデルは,もとの現象や問題をよく反映しているか,問題領域の正しい知識を理解しないでデータの処理だけに埋没してはいないか.
さて,(一財)日科技連の多変量解析研究会では,30年にわたり活動を続けてきた.その間に多くの問題に接し,データ解析を通じて現実の場での課題の解決に関わった.その成果の一部は,芳賀敏郎先生とともに編集,多変量解析事例集第1集(1992年),同第2集(1997年)として日科技連出版社から発行した.すべての事例に使われたているデータを公開することを編集方針とし,誰もがそれらのデータを再解析しながら事例を学べるように考えた.そのすべてのデータは,日本科学研修所開発の多変量解析ソフトウェアJUSE-MAのサンプルデータとしても収録されている.
上記多変量解析研究会では,芳賀先生もよくいわれるように,データ解析を行う人はその背景や問題領域での知識・固有技術をよく理解していなければ,適切な解析や問題解決はできないという考え方を大切にしている.別の言葉でいえば,「データ解析とともに問題解析を」,「データのあてはめ(Fitness for Data)から問題への適合(Fitness for Problem)」などといっている.一般的な統計でも,データの表している中身をよく考えることが大切である.
2001年5月7日掲載
※ (なお,本年1月に開催された日本科学技術研修所主催のの多変量解析活用事例シンポジウムでも「データの解析から問題の解析」と題して講演した.
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