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第7話 一つ余分の効用(六一学者の千字一話)

吉澤正先生御逝去に寄せて

六一学者の千字一話  六一学者 (吉澤 正氏)
六一学者 - 吉澤 正氏
(第10回JUSEパッケージ活用事例シンポジウムにて)


我が家は5人家族である.親父は時々ケーキを買って帰る.2種類のケーキ,例えば,チョコレートケーキとイチゴのショートケーキを3個ずつ.5人家族なのになぜ6個買うのか.

一つの理由は,3個と2個に分けて5個買うより,3個ずつ合計六個買ったほうが,家族の好みを満足させる度合が2倍になるのである.そのわけを考えてみよう.

5人の好みがそれぞれ気まぐれに確率半々で決まるとしよう.2種類のケーキをAとBとすると,5人の好みの組合せは,一人一人の選択が2とおりずつであるので,5人では2*2*2*2*2の32とおりである.これを並べてみる.

(1)AAAAA全員がAをほしい(4)BBBBB全員がBをほしい
(2)AAAAB(4人がA,1人がB)(5)BBBBA(4人がB,1人がA)
AAABABBBAB
AABAABBABB
ABAAABABBB
BAAAAABBBB
(3)AAABB(3人がA,2人がB
の場合10とおり)
(6)BBBAA(3人がB,2人がAの
場合10とおり)
AABABBBABA
ABAABBABBA
BAAABABBBA
AABBABBAAB
ABABABABAB
BAABAABBAB
ABBAABAABB
BABAAABABB
BBAAAAABBB

この32とおりのうち,Aを3個,Bを2個買って帰ると,全員が満足するのは3.のブロックの10とおりで,10/32の割合である.逆にBを3個,Aを2個でも同じ.もし,AとBを3個ずつ買えば,3.と6.両方の20とおりが満足されて,満足の割合は2倍になる.

もうすこしこまかく考えると,1人が不満の場合,2人不満の場合,3人不満の場合がある.その不満の数を数えると,Aを3個とBを2個のケースでは,

  1. 全員がAをほしいときは, 2人が不満(1ケース)
  2. 4人がA,1人がBのとき,1人が不満(5ケース)
  3. 3人がA,2人がBのとき,不満無し
  4. 全員がBをほしいときは, 3人が不満(1ケース)
  5. 4人がB,1人がAのとき,2人が不満(5ケース)
  6. 3人がB,2人がAのとき,1人が不満(10ケース).

それぞれのケースの確率は1/32とすると,不満というリスクの大きさは30/32となる.もし3個ずつ買うなら,同じ計算でリスクは14/32なり,約半分のリスクとなる.一般にリスクは,その事象の生じる確率に影響の大きさを掛けて評価する.

このように,ケーキ一つ分の余分な費用をかけることによって,満足度をあげる,あるいはリスクを低減することができる.

その効用はこれだけではない.残った一つをどう分けるか.家族の間で話し合う.残った一つを5個に切って分けるか,くじ引きにして勝った人が食べるか,じゃんけんにして勝った順にのこりの半分をたべるか,など.これは家族の団欒になる.「親父が二つ食べたいから余分に買ったのでしょう」という陰の声がきこえるが.

このような家族団欒を含めて,六一学者は「一つ余分の効用」といっている.近年リスクマネジメントに注目が集まっているが,リスクの低減には余分なこと,すなわち冗長性(redundancy)も必要である.


2001年8月16日掲載

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