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第9話  南北線はどのくらい真っ直ぐか(1)(六一学者の千字一話)

吉澤正先生御逝去に寄せて

六一学者の千字一話  六一学者 (吉澤 正氏)
六一学者 - 吉澤 正氏
(第10回JUSEパッケージ活用事例シンポジウムにて)


東京の営団地下鉄に南北線が全線開通したとき,デザインされた地下鉄の路線図では,東西線が水平に真っ直ぐ,南北線は奇妙に曲がって描かれているのが気になった.そこでさっそく東京都の地図を入手し,南北線と東西線はそれぞれどのくらい直線的か見てみた.

ちょうどその時期にデータ解析の授業を担当し,回帰分析と主成分分析を教えていたので,学生への宿題として,「南北線(目黒・赤羽岩淵)と東西線(中野・西船橋)はどの程度に直線的であるかを論じよ.」という課題を出した.学生から都営の新宿線(新宿・本八幡)も結構まっすぐですよ,との声もあり,新宿線も宿題に入れた.こうなると次の発想は,「山手線はどのくらい丸いか」.これについては別に取り上げる.

データ解析に関連した課題ということで,地下鉄各駅の2次元座標を多少の誤差は気にしないで地図の上で測定し,それをサンプルとして,散布図にプロットし,始点から終点までの直線性について自由に考えてもらうことを想定していた.

さて,学生のレポートを見てまず驚いたのは,ある1人の学生が地下鉄の公式位置をその経度と緯度についてインターネットで情報を得たことであった.教官としては地図の上から手作業で座標を決めるだろうと期待していた.そういう学生も少数はいたが,ほとんどの学生は,最初にインターネットで調べた学生のデータをメールでやりとりしていた.

多くのレポートは,北緯35度何分何秒,東経139度何分何秒とうような緯度経度の座標データを適当に10進数に変換し,そのデータをもとに相関係数(あるいは回帰分析による寄与率),ないしは残差平方和や残差の標準偏差を直線性の指標として用いて比較していた.

ちなみに,緯度・経度のデータによる相関係数は,南北線が0.226,東西線が-0.421,新宿線が0.323でった.その相関係数は2つの変数間の関係強さを表す指標であるが,東西や南北のように人間が勝手に決めた座標は変数としては意味が無いし,別の座標系をとれば,同じ点のものでも,相関係数は変わってくる.この場合,単純な回帰分析もあまり役立たない.

センスの良い学生の1人は,始点と終点を結んだ線をX軸とし,その直行方向をY軸として,座標を決めた.これによる相関係数は,南北線で0.939,東西線で0.896,新宿線では0.966になった.こういう座標を取れば,相関係数の大きさが直線性を表すと考えてもよさそうである.この段階で,地図をよく見ると,新宿線は本八幡を除けば,相関係数は0.977にあがることがわかる.

この宿題から2つの問題が明らかになった.第一は,直線性ということをどのように定義するか,第二は,2次元に散らばる点についてその相関係数が最大になるような座標系はどのように決まるか.


図9-1. 南北線,東西線,新宿線,山手線

第一の直線の定義は,南北とか東西に方向を与えたときの直線性と,そのような直線性の指標が最大になる直線方向を決めそのときの最大値で直線度を定義する場合が考えられる.千字を越えたので,次回に話を続けよう.

ところで,緯度経度の座標から普通のkm単位に変換するには,地図で有名な(株)ゼンリンにきいたところ,東京あたりでは,東西は1秒が25m(1分1.5km),南北は1秒が31m(1分が1.86㎞)であるとのこと.山手線を含めた層別散布図の例を以下に示しておく.


2001年11月21日掲載

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