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第18話  IT時代の3現・3想主義(六一学者の千字一話)

吉澤正先生御逝去に寄せて

六一学者の千字一話  六一学者 (吉澤 正氏)
六一学者 - 吉澤 正氏
(第10回JUSEパッケージ活用事例シンポジウムにて)


国鉄時代から現在に至るJR各社での鉄道輸送の安全対策は,事故が起きるとその原因を徹底的に究明して対策を講じる改善の積み重ね,すなわち,経験主義ともいうべき方法によってきた.もちろん,世界に冠たるわが国鉄道の安全性の高さは,多くの技術革新やシステム改革に支えられているが.

これに対して,人工衛星など新しい宇宙開発分野では,その経験も短く,ロケットを打ち上げる回数も,鉄道の運転回数に比べればはるかに少ない.そこでは,経験主義だけではやっていけない.米国のNASAで開発された信頼性工学の最新技術などを駆使して,想定される限りのあらゆる事態やリスクが洗い出され,その事態やリスクの影響が実験的にあるいは確率的に評価される.(以上は,2002年5月30日から開催された日科技連箱根QCシンポジウムでの,JR東日本会長から宇宙開発事業団理事長になられた山之内秀一郎氏のお話.)

伝統的な品質管理では,現場・現物・現実を重視するいわゆる3現主義が徹底され,経験主義的な改善活動が基本である.GENBAは世界語にもなった.その3現に原理・原則を加えて,“5ゲン主義”といわれることもある.また,事実管理ともいわれる事実やデータに基づく科学的管理が重視され,経営者にも“現場”を知ることが基本とされる現場主義がある.

これに対して,現在はIT時代.IT技術を駆使して,スピードを競った製品開発が行われている.3次元CADといわれる設計支援コンピュータソフトが発達し,製品の使用時から廃棄までのあらゆる問題が検討される.仮想現実ともバーチャルリアリティといわれる仮想的世界がコンピューター上で実現され,シミュレーションされる.サッカーのシミュレーションはイエローカードであるが,コンピュータシミュレーションは,ゲームの世界だけでなく,飛行機の操縦士の訓練をはじめとする高度な操縦や運転技術の訓練に利用される.

ときに,仮想現実の教育が行きすぎると,現実体験の無さの悪影響が出る.しかし,IT時代には,“仮想”の利用による幅広くスピーディな学習,新しいアイデアの“発想”,そして将来起こり得る危険事態の“予想”が重要になる.

教育や製品開発の場では,短時間に多様な仮想体験を踏み,可視化や非現実を利用した仮想場面からの創造的な発想を刺激し,将来のシナリオや予兆を掴む予想能力を養成するという目的をもってIT技術を利用することが望まれる.

IT時代には,現場・現物・現実の3現主義を忘れずに取り込みながら,仮想・発想・予想の3想主義を加えたい.3現と3想をほどよく調和させよう.3想だけというのは,“理想”でもなく,“空想”や“幻想”にすぎない.読者の“感想”をお聞かせ下さい.


(2002年7月7日,七夕の日に)

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