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第37話 日本列島ジニ係数の計算について(六一学者の千字一話)

吉澤正先生御逝去に寄せて

六一学者の千字一話  六一学者 (吉澤 正氏)
六一学者 - 吉澤 正氏
(第10回JUSEパッケージ活用事例シンポジウムにて)


本シリーズの33話で,ジニ係数に触れ,そのもととなるローレンツ曲線のことを累積分け前関数とよぶとわかりやすくなると説明し,2005年9月の台風14号の経路をみて,日本列島のジニ係数を計算してみようと書いた.

その後,小泉内閣の評価の一つとして,日本における所得格差や資産格差が拡大しているかどうかという議論がさかんになり,OECDからも日本の貧困率が増加しているとの見解が出された.実感的には,格差拡大を認める人が多いが,政府統計による詳細な分析は時間遅れのあることであり,国民全体の所得について現在の状況をすぐにわかるというわけにはいかない.また,ジニ係数などの指標は,不平等性をみるよい尺度ではあるが,一つの統計量として,その精度や解釈の難しさには限界がある.

ここでは,簡単な数値例で,ローレンツ曲線とジニ係数を説明しよう.総量100のものを5人に分けたとしよう.そのとき,平等なら20ずつ分けるのだが,差を付けて,10,10,20,20,40と分けたとしよう(大きさの順に並べていることに注意してほしい).このとき,次のような表1で,分け前の累積(積み上げ)を計算して,図1に示すように折れ線グラフで表示する.これがローレンツ曲線である.もし,平等に20ずつ分けると,その累積は,20,40,60,80,100となって,その線は45度の直線となる(図1参照,縦と横の範囲の幅を同じにしたときに45度の直線).これを平等線といっている.グラフをきれいに書くために,順位が0のデータをすべてゼロとして加えてある.  

図1
図1. ローレンツ曲線(累積分け前)と平等線

表1. 総量100をわけたときのローレンツ曲線を描くための表
順位分け前累積
分け前
平等線
0000
1101020
2102040
3204060
4206080
540100100

次に,ジニ係数の定義と計算方法を説明しておこう.ジニ係数は,分け前の平等を示す直線と累積分け前曲線(ローレンツ曲線)で挟まれる領域の面積の大きさ(Bとする)で測られ,ゼロと1の間の値を取るように,直線の下の横軸までの三角形の面積(A)との比率で定義される.

図1の場合,Bの面積は,ローレンツ曲線の下側で横軸までの図形の面積(Cとする)を小さい台形の合計として求め,AからCを引くことで求めるとよい.数値積分法には台形則という有名な方法があるが,それを使ってもよいが,次の式で求めるのと同じである.

ジニ係数 = 1 + 1 / n - 2 * 累積分け前の合計 / n / もとの総量

もとの総量を1にして,分け前を相対的に計算してあれば,上の式では総量で割る必要はない.図1では,累積分け前の合計は230で,1 + 1 / 5 - 2 * 230 / 5 / 100 を計算して,ジニ係数は0.28となる.

2005年9月の台風14号の経路(図2)から,日本海側と太平洋側を滑らかに近似してローレンツ曲線とみなすと(図3),日本海側のジニ係数はだいたい0.5,太平洋側はほぼ0.8と計算される.そのための計算表を表2に示しておく.(なお,日本規格協会発行『標準化と品質管理』2006年10月号のエッセイとして,関連の話題を取上げているので,読んでいただければ幸いです.)

図2
図2. 日本列島の地図での2005年台風14号の進路
2005年9月9日気象庁発表資料より
図3
図3. 日本列島ジニ係数の計算表

表2. 日本列島ジニ係数の計算表
台風経路日本海側でのローレンツ曲線太平洋側でのローレンツ曲線
0000
10.10.020.01
20.20.050.02
30.30.080.03
40.40.120.04
50.50.170.05
60.60.210.062
70.70.280.76
80.80.420.1
90.90.650.25
10111
合計31.638
ジニ係数0.50.7724

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